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英日翻訳者・ライター。行けるとこまで行きます。

小説・ノンフィクション

アニー・エルノー「嫉妬」

主人公の女性って中年だよね? その彼女が、自分が捨てたはずの男に新しい恋人がいると知った途端、惜しくなってストーカー化するって……バカだなぁと思うけど、そういうことあるよねぇとも思う。この醜さ、惨めさが言語化されてるのがすごい。ちょっと“阿部…

「対話のレッスン」

日本人は対話が苦手。日本人は異常に反省が好き。「対話のレッスン」に書かれていた内容が激しく自分に当てはまって、苦笑いしちゃう気持ち。日本人は小学校の頃からディベートの授業を取り入れるべきだと思う。そういう教育を受けてきたら、自分と異なる意…

「路上のX」

桐野夏生は渋谷近辺に住んでるのかな。「グロテスク」も「燕は戻ってこない」にも出てきたけど、今回の「路上のX」もがっつり渋谷が舞台の物語で、普段自分が街ですれ違っている女の子たちの姿を思い出しながら胸が苦しくなった。道玄坂のラーメン屋、宮益坂…

「Never Saw Me Coming」

ヴェラ・クリアンのデビュー小説「Never Saw Me Coming: Grade A student. Grade A psychopath」を読み終えた。この本はワシントンD.C.を舞台に、サイコパスの女子大学生クロエが、復讐を果たしていくサスペンスだ。クロエは12歳の時にウィルにレイプされ、…

クリーピーパスタ

共訳書『【閲覧注意】ネットの怖い話 クリーピーパスタ』が発売された。自分が担当した作品を改めて読み直し、「こうすればよかったのか!」といまさら悔しくなるような己の未熟さを感じるなどしたが、やっぱりこうして出版されるのは嬉しいものだし、訳者の…

「燕は戻ってこない」

桐野夏生の本を読むと、逆境に置かれていてもなにくそっていう力がわいてくる。あと自分勝手になってもいいんだ、感情に流されてもいいじゃんって思える。あんまり先のこと考えて心配しすぎるのやめたい私には、いまちょうどぴったりの本だった。もういろい…

「三つ編み」

インド、シチリア、カナダとそれぞれの主人公のドラマが映像として頭にイメージしやすくて、さすが映画監督の作家だなと思った。翻訳もリズムがよくて読みやすかった。最後に3人の女性の物語が繋がるんだけど、インドの不可触民の母娘は、小説の結末の先もど…

「ミッドナイト・ライブラリー」

「ミッドナイト・ライブラリー」の翻訳(浅倉卓弥さん)がとても良くて、勉強になった。自殺しようとした女性が、あの世とこの世の境目にある不思議な図書館に迷い込み、あの時もしあっちの道に進んでたら私どうなっていたの?という、自分が選ばなかった人…

『MONKEY』

今月号の『MONKEY』は翻訳教室特集なので迷わず買ったところ、すごく中身が濃くて、これはペラペラ眺めるのではなく舐めるように堪能しなければと思ってる。作家別キーワード事典のページで出てくる、スティーヴン・ミルハウザーの「ある夢想者の肖像」の訳…

「夏の沈黙」

アルフォンソ・キュアロン監督&ケイト・ブランシェット主演でドラマ化されると知り読んだ「夏の沈黙」。夫婦の愛憎ものかと思いながらページを進めると、実は破綻した家族の物語だった。 自分の身に起こった衝撃的な出来事を隠しながら、自分を理解していな…

「あちらにいる鬼」

瀬戸内寂聴が他界したので「あちらにいる鬼」を読んでみた。寂聴もたいがい本能の赴くままに生きてきたけど、井上光晴がその上をいく奔放さで閉口してしまった。いくら本人がチャーミングだとしても、寂聴だけでなくその前後も同時進行でもあんなに不倫を繰…

「つみびと」

大阪二児置き去り死事件を題材にした「つみびと」を読んだ。逮捕されて30年の実刑を受けた母親、蓮音だけが悪いのか。罪の割合を調べるDNA解析みたいなのができるとしたら、蓮音だけでなく彼女の元夫で子どもたちの父親である音吉も、幼い蓮音を捨てて家を出…

「Smaller and Smaller Circles」

フィリピン・マニラのスラムで少年が惨殺される連続殺人事件を追う、牧師2人を描く物語。顔の皮を剥ぎ取って内蔵をえぐる殺し方も、ゴミの山に投げ捨てる遺体遺棄の仕方もエグくて、貧乏な子供の命とか人権がそこらのネズミみたいに軽い。貧困の連鎖と、警察…

「BUTTER」

レシピを忠実に再現することにこだわらず、自分の気分や天候、その時のひらめきに従って何かを加えたり引いたりする。そうして自分に合った味にして、気に入ったらそのオリジナルのレシピを自由に他人と共有し、それが世界に広がっていく。失敗しても大丈夫…

「あのこは貴族」

地方出身であり、東京の大学にエスカレーターで進学した内部生でもある自分は、華子の世界も美紀の世界も片足だけ突っ込んだ傍観者として共感できた。女同士の醜いファイトがなくて、それぞれにプライドがあって、すがすがしいエンディングも好感もてた。映…

「昭和歌謡大全集」

オタク軍団とおばさん軍団の戦闘もので、村上龍がいろいろ行き詰まってた時に鬱憤を晴らすため書いたらしく、突飛すぎ&毒舌すぎで何度も声出して笑った。でも、おばさんって言っても30代半ばなんだよね。昔の小説だから、当時だと十分おばさんって認識なん…

「自転しながら公転する」

「5時に夢中」で中瀬ゆかりたんが激賞していた「自転しながら公転する」を読んだ。山本文緒さんの本を読んだのは初めて。アマゾンのレビューにたくさん書いてあったように、確かに読みやすかった。けれどそんなことより、この枯れ朽ちていく一方の日本で、老…

「ウーマン・イン・ザ・ウィンドウ」

前半なかなか事件が起こらなくてページが進まなかったけれど、途中はなかなかスリリングで楽しかった。後半も二転三転あって、落ち着いた先に「う〜ん」と微妙な気持ちに。小説だから何でもありだけど、こんな子いるかな?と思ったところで、そうだこの作家A…

「平場の月」

独り身の下流中年の恋愛もので、読み終わった後、静か〜な余韻に浸った。昔のように気持ちのまま暴走する体力も気力もなく、目の前の病と生活に自分1人で立ち向かうことだけに必死な須藤のこと、よくわかるし素敵だなーと思った。自分を軽蔑しちゃうような経…

「トウキョウ・バイス」

ちょうど今週、渋谷や新宿で撮影が行われていたらしい。マイケル・マンがパイロット版の監督を務めるというHBO Maxのドラマの原作「トウキョウ・バイス: アメリカ人記者の警察回り体験記」を読み終えて、自分が何の刺激もなくだらーっと暮らしている街で、こ…

「罪の声」

「罪の声」見た。脇の役者さんたちが豪華だった。グリコ森永事件の犯人に声を使われた子供たちのその後を描くっていうアイデアはいいと思ったんだけど、肝心のキツネ目の男のことが全然、物語で回収できてないじゃないの。最後のたたみかけるようなお涙頂戴…

Moxie Girls Fight Back!

エイミー・ポーラー監督でNetflixで映画化されるというニュースを仕事で訳してから、ずっと気になっていたジェニファー・マチュー著のYA小説「Moxie」。めちゃくちゃ良かった! Netflixの「セックス・エデュケーション」が好きな人は、絶対この本好きだと思…

「ヒルビリー・エレジー」

少し前に映画化されるという記事を訳してから気になっていた「ヒルビリー・エレジー アメリカの繁栄から取り残された白人たち」を読んだ。オハイオ州とケンタッキー州の田舎町で育った著者J・D・ヴァンスの回顧録で、ヒルビリー(アメリカの貧しい労働者階級…

「果てしなき輝きの果てに」

「果てしなき輝きの果てに」を読んで、フィラデルフィアのイメージがものすごく変わった。といっても、フィラデルフィアは映画「ロッキー」ぐらいの知識しかなかったんだけど。この本はフィラデルフィア・ケンジントン地区の通称バッドランドと呼ばれる、全…

「ホット・ゾーン」

「ホット・ゾーン エボラ・ウイルス制圧に命を懸けた人々」を最初、震えながら読んでたんだけど、自分の中の盛り上がりは後半になって失速した。アフリカで流行した致死率90%のエボラが、なぜかフィリピンから輸入したサルによってアメリカに持ち込まれ、飼…

「秘密の花園」

「秘密の花園」(松田聖子じゃないほう)を読み終わった。子どもの頃に一度読んだような、初めてのような、さっぱり記憶にないからわからないんだけど、自然の描写が生き生きしてて、話の展開が予想通りで、気持ちが安らいだ。太陽に照らされた葉や土の香り…

「血みどろ臓物ハイスクール」

なんだこりゃ! っていう奇天烈な小説でめちゃくちゃ笑った。ヤリマンビッチを自負する10歳の奴隷の少女が「アソコを突きなさいよ」「お願い突いて」「なんで突かねーんだよ!」と絶叫しまくる。支離滅裂な言葉の羅列、文を成してない文、イラスト、意味不明…

「ある放浪者の半生」

「ある放浪者の半生」は、挫折して人生放棄した父を蔑視している青年が、インドからロンドン、アフリカの元ポルトガル領らしき国、そして彼が不細工で生意気と思う妹を頼ってドイツに渡るまでの半生が描かれる。40歳を過ぎて、よく知らない国で父と同じ姿を…

エミリー・ビットの小説「The Strays」

ドラマ化されるというニュースを知って、ストーリーが面白そうだったので読み始めたんだけど、展開がスローで途中投げ出しそうになった。エミリー・ビットの小説「The Strays(原題)」は1930年代のオーストラリア・メルボルンが舞台で、前衛芸術家の夫婦と…

リンディ・ウェスト「Shrill: Notes from a Loud Woman」を読んだ

エイディ・ブライアント主演でドラマ化されている原作本「Shrill: Notes from a Loud Woman」を読んだ。この本はコラムニスト、リンディ・ウェストの回顧録で、小さな頃から太っていた彼女が体型コンプレックスを乗り越えて自尊心を獲得するまでの長い道のり…